特集 子供の世界から社会を変える「命の授業」の取り組み
子供たちの社会から「いじめをなくしたい」「自殺をなくしたい」
そんな想いから始まった命の授業。これまで授業を受けた子供やその保護者は延べ15,000人を超え、実施した学校は200校以上にのぼります。
「命の授業」
◆子供の力が大人の世界を変える

秘書渉外部CSR推進室 若尾久
「悪循環を断ち切りたい。子供は大人を見て成長します。日本の年間自殺者は約28,000人にも上るといわれ、そのうちの約580人が20歳未満の子供たちだといわれています。こうした悪循環を断つためにも、子供の世界へ働きかけることが重要だと考えました」。秘書渉外部CSR推進室の若尾久は自らの「命の授業」の取り組みについてこう話します。
2007年6月よりカシオ計算機の社会貢献活動として、持続可能な社会の構築のために取り組んでいる「命の授業」は、これまでに延べ15,000人を超える子供たちに命の大切さ、何のために生きるのかを問いかけ、考えるきっかけを与えてきました。「子供たちに何を伝えたいのかと考え抜いた末、たどり着いた答えが『命』でした。やるからには形だけの取り組みにしては絶対にいけない。そのためには、子供たちに『本気』で向き合わなければならない。そう考えたときに私は『命』について伝えるべきだと思ったのです」。自らの授業のテーマについて若尾は熱く語ります。
◆重要なのは本気で話すこと

「命の授業」の様子
小中学生には、多少重たいとも思えるこのテーマ。取り組みを始めた当初は先生方から「子供には分からないだろうから、そういう話はやめてほしい」と言われることも多かったといいます。「私の授業では命の大切さを伝えるとともに『何のために生きるのか』を伝えています。これは幼稚園で授業をするときも同じです。ある小学校で1年生の児童に授業を行ったときのことです。授業が終わるとひとりの男の子が私に『僕は生きる意味が分かった』と言ってくれた。ちゃんと理由も『生きることは本気で生きること』だと。子供だから分からないのではなく、子供だからこそ分かることがあるのだと思います。大人の勝手な価値観で子供の可能性を決め付けてしまっているだけで、子供たちは本気で向き合えば必ず分かってくれる」。大切なのは「本気」で話すことと若尾は繰り返します。「だからこそ私の授業にはマニュアルはありません。授業では私自身の人間性を伝えるようにしています。授業は毎回異なり、授業をやるごとにさらに変わっていく。子供たちから気づきをもらい、それを次の授業に肉付けしていく。そういう次元で考えないと子供たちには『本気』で伝わらないと考えています」。
◆授業をきっかけに動き出した子供たち

子供たちが作った「エコプロダクツ」ブース
「命の授業」を受けた生徒の反応はいまや社会現象といえるほどまでに大きく成長しています。神奈川県横浜市の永田台小学校では、国内最大級の環境展示会「エコプロダクツ」へ、小学校では唯一の出展を果たしました。会場では小学校1年~6年生までの児童たちが、通りかかるまったく知らない大人に向かって自分たちの想いを伝えている姿がみられました。「授業は伝えて終わりではいけないと考えています。授業を受けた子供たちの行動につながらなければ意味がない」若尾はそう語ります。
子供たちへの影響はこれだけではありません。授業を受けた子供たちの中には命の大切さを学び、劇的に変わる子供も多いといいます。実際に、授業の後、若尾のもとに届く子供たちからの手紙には、「自殺を思いとどまった」「これまでいじめをみてみぬふりをしてきたけど、これからは勇気を出してやめさせたい」「もういじめをやめようと思う」といった内容のものが多くみられます。「先生方にも話していない個人的な話をしてくれる子供が何人もいます。私の授業を通じて自殺を思いとどまり、今は元気でやってくれている子供がいるということだけでも、この取り組みのやりがいを感じます」。そう若尾は言います。
◆社会への広がり

講演の様子
こうした子供たちの行動は、大人たちをも動かす大きな波紋として全国に広がっています。授業の反響は口コミで広がり、今では北海道から九州まで、日本全国の学校から授業の依頼をいただきます。また、それだけではなく、教育関係者や、PTA、学校の周辺地域住民など、子供たちに心を動かされた大人にも変化が起こっています。「大人に対して講演する機会も増えてきています。取り組みの意義や、私が授業を通じて実現したい想いなどをお話しすると、『大人も変わっていかなくてはいけない』といった多くの反響をいただきます」若尾は実感を込めてそう言います。
教育現場との連携も進んでいます。文部科学省が推奨するESD(Education for Sustainable Development 持続発展教育)の国内好事例として、世界の教育関係者に向けて講演することもしばしば。講演では、授業をきっかけとした子供たちの成長や変化について紹介。各国の出席者からは「これだけ本気の活動に触れたのは初めて」「大変感銘を受けた。わが国でも取り組みたい」「児童の『お母さんお父さんに生んでくれてありがとうと言いたい』という言葉に感激した」といった感想を多数いただいています。
◆若尾の取り組みから、カシオ計算機の取り組みへ
こういった若尾の取り組みを、会社としてはどうみているのか。CSR推進室室長 木村則昭はこう話します。「形式的な取り組みではなく、直接魂に働きかける取り組みだからこそ、これほどにまで大きな成果につながったのだと思います。今後の課題は、今は『若尾さんの命の授業』になっていること。これを『カシオ計算機の命の授業』にしていかなくてはいけない。後継者を育成し、会社としての信念をもった、骨太の活動に育てていきたいですね」。
こうした取り組みの意義を理解し、会社が後押ししてくれることに「本当に感謝している」と話す若尾。「取り組みを通じて、こういう熱い想いをもった人がカシオにはいるんだ、ということを多くの人に知ってもらえるとうれしい」と話します。命の授業を通じてひとりでも多くの子供たちに健全でやさしい心を育んでもらいたい。若尾の、そしてカシオ計算機の取り組みはこれからも続きます。
命の授業へのメッセージ
命の授業について
命の授業をきっかけに、確実に子供たちは変わってきました。命のつながりを意識し始めた子供たちと教師は、今まで以上に気づきを得ています。命のつながりへの気づきは、現在の複雑化している課題にも立ち向かえる「つながりに対する気づき」を培い、課題解決にエネルギーを醸成することでしょう。
今後は、若尾さんに頼る割合を減らしていきながら、教師がより主体的に「命の授業」をコアにしたESD(持続発展教育)にチャレンジしていけるよう学校体制を整備していきたいと思います。
横浜市立永田台小学校 校長 住田 昌治様
「命の授業に寄せられた感想」
命の授業を通して、田んぼと環境、日本の伝統とのつながりについて子供たちが考えられるようになりました。若尾先生の授業は若尾先生の実体験に基づいた話だったので、子供たちが関心をもって話を聞くことができ、総合学習に対する子供たちの意欲が高まりました。
<担任>
子供たちの心の中に、命のつながりが染みる授業です。多くの気づきを与えてくれ、年間を通して命の大切さを意識し続けることができます
<担任>
命の授業は、いつも子供たちの転機となっていました。それは、学習を始めるきっかけ、学習に対する自信がなくなっていたときの意欲づけ、新しい視点の発見でした。いつも、一緒にいる担任だけでなく、若尾先生に教えていただくことや認めていただくことで、子供たちは学習に対する意欲をもったり、自信をつけたりしていく様子がありました。
<中学生>
私は「命の授業」を受けて、すごく命が大切なことに気がつかされました。一日一日を大事に生きて、亡くなった人の分まで精一杯生きていきたい。そして、今、私がこうして生きていることに感謝して、悔いのない人生を送っていきたい。どんなに辛いこと悲しいことが起きても、自分には命があるから、ありがたみをもって生きていきます。こんな大切なことに気づかせていただいて、本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。
<中学生>
私たちはこんなにも大事な「生命」をもち、「絆」で結ばれている。人それぞれが何か使命があるから、生きていることに気づいた。私は「命の授業」を受けて、しっかりと自分の道を歩みながら、これからの人生を生きていきます。
<中学生>
「命の授業」を受けて、普段考えることのない命について考えさせられました。これからは本気で生きていこうと思いました。命は一つしかないものでとっても大切なものです。これから私は、命を落とす人が少なくなるように、いじめや差別の問題などがあれば、積極的に止めていきたいです。次にこういう機会があれば、もっと命について詳しく知れたらいいなと思いました。そして、教えてもらったことをいろいろな人に伝えていきたいです。
<中学生>
「命の授業」で、ガンと戦った13歳の少女の紹介がありました。その少女は病気と闘いながらも勇気をもって明るく前向きに生きようとしていました。だから、自分にも周りの人たちにも希望が芽生えたと思います。僕は短気ですぐに「イラッ」とするところがありましたが、その少女のことについて学び、自分を見直そうと思いました。この世の中に体が不自由な人たちが数え切れないほどいることを知ることができました。僕は「走れる、ご飯を食べられる、しゃべることができる、そして物事を感じることができる」。僕は今までどうかしていました。「こういう人たちに比べれば何ともないことで、『イラッ』としていたなんて」と、そう思います。その少女は亡くなられてしまって、大変残念ですが、天国で安らかに眠り続けられるように心からお祈りいたします。
<小学生>
自分が今ここに生きていることは奇跡だと思う。どんなに小さな命でも、生きているのには変わりがないから、大事にしようと思った。僕は、このことを一生忘れなければ、人を思いやる心をもてると思うし、人を大事にしようとする心をもてると思った。このことをこれから忘れずに、毎日を大事に生きていきます。
<小学生>
「命の授業」を受けて、命の大切さ、つながりの大切さ、そして、友達がいる意味を知った。僕は、中学校に行っても、高校生になっても、大学生になっても、大人になっても、おじいちゃんになっても、「命の授業」を心の中にずっとずっと、しまっておこうと思っている。そして、家族と友達がいるだけで感謝することを覚えておこうと思います。
<小学生>
「命の授業」を受けて、この世界を変えていきたいと思った。小さくても、大きくても、汚くても、綺麗でも、一つ一つの命がもっているその光景を輝かせていきたい。心の奥に残るものを若尾さんから学ばせてもらいました。これから先、生きていく上で大きな大きな支えとなるものをいただいて、感謝しています。この思い出を胸にしまって一歩一歩前に進んでいきます。
<小学生>
「命の授業」を受けて思ったこと。それは戦争のことです。戦争は人の心の中で産まれてくるもの。だから、人の心が平和な心、人を許す心をもちながら仲良くすることが大事だと思う。でも、人の心は簡単には変わらないから、戦争が続いているのだと思う。だから、一人ひとりが平和な心をもち続け、たくさんの人に、その心を伝え、広めていくこと。人の心の中に「こころの砦」をきずいていくこと。このことを真剣に考え、実行していきたい。
<小学生>
若尾さんと出会ってから二年間、大事なことをたくさん学ぶことができました。初めはよく分からなかったけど、だんだんと若尾さんが教えてくださることに興味がもてるようになりました。「命の素晴らしさ、人のあたたかさ、自然の偉大さ、そして本気で語る楽しさ など」、私が気づくってすごく大事だと思う。自分の周りの小さな幸せを見つけることが今、本当に楽しい。もっともっとたくさんの人に小さな幸せを見つけてほしいな。
<保護者>
「命の授業」の講演を受講して、改めて、家族やたくさんの人に命の大切さ、ありがたさを伝えていこうと思った。本日は参加して本当に良かったです。少しでも誰かの力になれる人になりたいと思う。
<保護者>
「命の授業」の講演を聴き、命について改めて考えることができた。日常生活を送る上で、当たり前と思っていたことが、どんなに大切なことか、気づかされた。今、このときに感謝し、命の大切さを感じながら生活を送っていきたい。世の中に起こっているいろいろな問題にも、自分ができることを見つけ、生きている証しを見つけていきたい。
